年末調整を行う理由

年末調整を行う理由には、主として、以下2点の目的があります。
・給与所得者の所得税の確定計算を行う目的
・給与所得者の翌年度の住民税の徴収額を決定する目的

給与所得者の所得税は、毎月の給与支払い時に「源泉徴収税額表」に従った金額が徴収されています。これを源泉徴収制度といいます。
この源泉徴収制度により毎月の給与から天引きされる所得税のことを「源泉所得税」といいます。

他方、給与所得者が所得税として「税務署に納めなければならない所得税の金額」は、「年間の給与総額」から「各種の所得控除金額(社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、配偶者控除、扶養控除等)」や「税額控除(住宅借入金等特別控除)」を差し引いて計算した年間確定所得に対して計算された税金金額です。

この毎月給与から徴収される「源泉徴収税額の年間合計額」と「税務署に納めなければならない所得税」とは、一致しないことが通常となります。

この不一致を精算するために、
①税務署に納めなければならない所得税額計算を行い
②この不一致金額を給与所得者に返還又は追加徴収する精算手続きを
年末調整といいます。

 

「源泉徴収額の年間合計額」と「年末調整で計算した所得税額」に不一致が生じる理由

不一致が生じる理由としては、様々な要因がありますが、主要な要因は以下のものとなります。

①「源泉徴収される金額」は、「その月の給与金額」が年間通じて変動しなければ課せらる所得税額の1カ月分が徴収されます。
他方、実際の給与は、残業手当や昇給等があることから変動します。年末調整では、この変動する給与金額を1年間集計した給与総額に基づいて所得税が計算されます。
このため「源泉徴収額の年間合計額」と「年末調整により計算された所得税金額」との間に不一致が生じます。

②「源泉徴収される金額」は、生命保険料控除や地震保険控除等はその計算に含められていません。
他方、年末調整では、それらも考慮して所得税が計算されます。このため、両者の間には不一致が生じます。

③年度の途中で配偶者数や扶養者数に変動があった場合、「源泉徴収」では、変動後の月からはその変動を考慮して源泉徴収金額が計算されますが、変動前の「源泉徴収金額」を遡及して計算することはありません。
他方、「年末調整」では、その年の最初から変動を反映して、所得税の金額が計算されます。このため、「源泉徴収税額の年間合計金額」と「年末調整で計算された所得税金額」との間に不一致が生じます。

 

給与所得者の所得税の確定計算の目的

給与を受けている方(いわゆるサラリーマンの方)は、毎月、給与の支払いを受ける際に所得税が差し引かれています。(源泉徴収といいます。)
この毎月、給与から天引きされる所得税は、あくまで「その月の給与金額」に対応する所得税額を概算した金額が徴収されているにすぎません。

他方、給与所得者が税務署に納めなければならない所得税の金額は、「暦年の給与総額」を基にして計算されます。

このため、12月の給与計算が完了した時点で、1月から12月(暦年)に支払を受けた給与総額に基づき、所得税を確定計算することが必要となります。
この、確定計算は、事業主が行い税務署に申告する必要があり、この確定計算のことを「年末調整」といいます。

年末調整をおこなうことにより、 上記の「毎月源泉徴収された概算所得税金額」と「確定所得税金額」とが比較され、前者が多い場合には、給与所得者に所得税が返還(還付)され、逆に前者が少ない場合には、所得税が徴収されます。

 

給与所得者に係る翌年度の住民税額の決定

年末調整では、事業主から税務署に給与所得者の暦年の給与総額が届出されるとともに、市町村にも、「全ての給与所得者の給与総額」情報が届出されます。

市町村では、年末調整に伴って事業主から提出された、各給与所得者の給与総額に基づいて、翌年度の住民税を決定します。

上記で決定された住民税の金額は、翌年の5月~6月に、会社や給与所得者に通知されます。
その後、この通知された金額が、給与支払い時に給与金額から天引徴収されたり、給与所得者が自ら納付したりすることで、市町村に納付されます。

 

年末調整義務者

給与所得者の所得税を計算し、税務署に申告し、源泉徴収額との不一致を精算する義務(適切に年末調整を行う義務)は、「給与所得を支払う事業主」が負います。
この事業主には、会社等の法人のみならず、個人等の個人事業主も含まれます。

 

年末調整の義務を課す理由

所得税については、納税義務者が「個人」であるために、その数が膨大であり、税務署が1人1人の所得税の申告を受け付け、所得税の納付の確認作業を行うことは、税務署の事務処理手続の負担が膨大となります。

また、所得税の計算・申告には、ある程度の所得税の知識を必要とするために、個人にとっても、所得税の計算・申告の事務処理の負担が大きくなってしまいます。

このため、特に、膨大な数に上る「給与所得者の所得税の計算・申告」については、その給与支払者である事業主(会社等)に計算・申告の義務を課し、事業主が給与所得者に代わって、「給与所得者の所得税の計算・申告」を行うこととする制度(年末調整制度)を設けています。

 

年末調整が不適切であった場合の責任

年末調整の義務が事業主にあるために、年末調整の結果である所得税の精算額の納付義務も事業主が負います。

このため、年末調整の計算結果が適切でなく納付額が正しい金額よりも少ない場合や納付期限に納付が間に合わない場合の責任は、一義的に事業主が負います。

税務署が納付金額が不足していることを発見した場合には、「給与所得者の所得税の納付不足」に対する不足額の追加支払や延滞金の支払の責任は、事業主が負わなければなりません。

このため、事業主の方は、
・年末調整に必要な書類を時間的余裕をもって集め
・正確な所得の計算、所得税の計算を行い
・申告、納付期限までに年末調整が完了する必要があります。

 

原則的な年末調整対象者

年末調整の対象者は、原則以下の方です。

(1)1年を通じて勤務している人

(2)1年の途中で就職し、年末まで勤務している人

(3)1年の途中で退職した人で、再就職する見込みがない人(以下のケース等)

  1. 死亡を原因として退職した人
  2. 著しい心身障害のため退職した人で、その退職時期からみて、本年度中に再就職ができないと見込まれる人
  3. 12月中に支給期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した人
  4. いわゆるパートタイマーとして働いている人が退職した場合で、本年度中に支払をうける給与の総額が103万円以下である人
  5. 1年の途中で、海外支店等へ転勤したことなどの理由により、非居住者※となった人

※非居住者:日本国内に住所もなくかつ1年以上の居住もない人を言います。

 

原則的な年末調整対象者の考え方

年末調整は、給与受給者の年間給与総額を把握することが可能な事業主に、税務署にかわって給与所得者の所得税を計算させる義務を課した制度です。

このため、12月末時点に会社等に在籍している人については、原則、その会社等が年末調整を行う義務を負います。
⇒上記の(1)や(2)の方

他方、会社を退職した等により、12月末時点に会社に在籍していない人については、会社に年末調整の義務はなくなります。

ただし、会社を退職した後に、その年度に再就職等をする見込みがないと思われる方については、退職元の会社に年末調整義務を課しています。
(なぜなら、年内に再就職する場合には再就職先で年末調整が行われますが、年内での再就職の見込みがない場合には、その方の所得税計算をする会社等がないことになり、その方の所得税の確定計算がなされない可能性があるためです。)
⇒上記の(3)の方

 

年末調整の対象者とならない場合

以下の方は、年末調整の対象とはなりません。

(1)12月末に会社に在籍しているが、年末調整の対象とならない人

  1. 勤務する会社での本年度の給与収入金額が2,000万円を超える人
  2. 災害により被害を受けて「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、本年度分の給与に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予又は還付を受けた人
  3. 「扶養控除等(異動)申告書」が未提出の人
    ・2か所以上から給与を受けている人で、他の事業主(会社、個人事業主等)に「扶養控除等(異動)申請書」を提出しているため、その会社には「扶養控除等(異動)申請書」を提出していない人
    ・年末調整手続を行うまでに「扶養控除等(異動)申請書」を提出していない人

(2)1年の途中で退職した人のうち、年度内に他の事業主から給与の支払いを受ける可能性のある人

(3)非居住者の人

(4)日雇いの形態で雇用されている人

 

年末調整の対象者とならない理由

【上記(1)の1、2の方】

このような方につきましては、「年末調整」ではなく、「確定申告」で所得税の計算・申告をすることが義務付けれれています。従いまして、勤務する会社での「年末調整」は行われません。

【上記(1)の3の方】

①2か所以上で勤務する方
年末調整を受けた場合には、自動的に「給与収入金額」から「給与所得控除(65万円)」が差し引かれて所得が計算されます。
2か所以上で勤務する方につきましては、仮にそれぞれの会社で「年末調整」を行った場合には、「給与所得控除(65万円)」がそれぞれの給与から控除されてしまいます。
すなわち「1人の給与総額」から「複数の給与所得控除」が適用されてしまいます。

このような適用を防止するために、複数の会社等から給与を受ける人は、主となる給与を受ける会社等でのみ「年末調整」を行うこととし、その他の会社等では「年末調整」は行わないような制度を設計しています。

ただし、給与を支払っている会社では、
・従業員が他から給与を受けている
・その従業員がどの会社で年末調整しようとしているか等
かわからないことが多いです。

このため従業員がその会社で「年末調整」を受けようとしている場合には、「扶養控除等(異動)申請書」の提示が必要となり、他方、「扶養控除等(異動)申請書」の提示がない場合には、「年末調整」を行わないように制度設計されています。

②「扶養控除等(異動)申請書」の提示がない場合
上記①で記載しましたとおり、役員・従業員から会社への「扶養控除等(異動)申告書」は、会社が「その方の年末調整をするか否か」の判断を行うための重要な書類となります。

この「扶養控除等(異動)申請書」の提示がない場合には、その未提出理由に関わらず、会社では「その方の年末調整」ができないことになります。

【上記(2)の方】

1年の途中で会社等を退職され、その方が再就職する見込みがある場合には、そもそも退職元の会社では、その方の「1年間の確定給与総額」を把握することが不可能です。

このため、このような方は、退職元の会社での「年末調整」の対象とはなりません。

【上記(3)の方】

非居住者に給与等を支払っている場合には、「年末調整」の対象とはなりません。

【上記(4)の方】

日雇いの形態で雇用した人についても、他で給与を受けている可能性があるために、「年末調整」の対象とはなりません。