従業員を雇用する際に必要な手続きを行うのは、人事・労務担当者の重要な仕事。
期日に間に合うよう、社会保険や雇用保険の加入手続きを行う必要があるのです。

本稿では、従業員を採用した際に必要な社会保険・雇用保険の手続きの内容と、必要書類について詳しく解説していきます。
最後までお読みいただければ、人事・労務の基礎知識が身につくはずです。
ぜひ参考にしてみて下さい。

【人事の基礎知識】社会保険とは

社会保険とは、定められた規定に該当する事業所と、所属する従業員に加入義務が生じる公的保険のこと。
国が運営する社会保障制度の一部であり、条件を満たした事業所と所属する従業員は必ず加入しなければなりません。

社会保険の内容は以下のように「広義」と「狭義」で解釈のし方が異なります。

〇広義の社会保険

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 労働者災害補償保険

〇狭義の社会保険

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険

 

本稿では社会保険=「狭義の社会保険」と定義し、健康保険と厚生年金についてを以下で詳しく解説していきます。

社会保険に加入しなければならない事業所とは?

社会保険への加入しなくてはならない事業とは、以下のとおりです。

  • 国、地方公共団体、法人である事業所
  • 該当する業種(※)に属し、常に5人以上を雇用している個人事業所

※製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告工業、教育研究調査業、医療保険業、通信報道業など

参照:厚生労働省

上記に該当しない事業所であっても、以下の条件を満たすと「任意適用事業所」となり、社会保険に加入できます。

  • 所属する半分以上の従業員が、厚生年金保険等に適用されることに合意している
  • 事業所が申請し、厚生労働大臣から認可される

被保険者ではない人を除く、勤務している全ての従業員が社会保険に加入することになります。

任意適用事業所の場合、健康保険、厚生年金保険どちらか1つだけに加入可能です。

社会保険に加入しなければならない従業員とは?

「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が2020年5月に成立し
たことに伴い、社会保険の適用範囲が拡大されました。

従来よりも幅広く、パートやアルバイトなどの短時間労働者も社会保険に加入できるようになったのです。

社会保険の加入対象となる従業員と、その適用範囲拡大のスケジュールは以下のようになっています。

2022年10月~

2024年10月~

週20時間以上勤務

週20時間以上勤務

月額賃金が8.8万円以上

(年106万円以上)

月額賃金が8.8万円以上

 (年106万円以上)

2カ月以上の雇用期間が見込まれる 2か月以上の雇用期間が見込まれる

従業員数が101人以上である

従業員数51人以上の企業

学生ではない

学生ではない

上記の「従業員数」とは、社会保険の適用が拡大される前の「被保険者の数」です。
被保険者ではない短時間労働者は含まれません。

2017年(平成29年4月)からは、従業員が500人以下であっても、事業所と従業員の間で合意があれば社会保険の加入対象となります。

会社が「社会保険の加入対象となっている従業員」を加入させなかった場合どうなる?

政府は「社会保険に加入していない企業への指導」を行っています。
その指導を無視してしまった事業所は、立入検査を受け、社会保険加入の手続きをするよう要求されるのです。
これも無視してしまうと、懲役や罰金等を科せられる危険性があります。

労務を担当している人事は、自社に所属する「社会保険に加入すべき従業員」の有無を常に把握しておく必要があるのです。

【人事の基礎知識】社会保険加入に必要な書類&提出先

事業所が新たに社会保険に加入する際は「強制適用事業所」であれば、会社として成立してから5日以内、「任意適用事業所」であれば「社会保険に加入することに」対して所属する従業員の過半数の同意を得たのち、以下の4つの書類を「日本年金機構」に提出することになります。

 

  1. 健康保険・厚生年金保険新規適用届
  2. 被保険者資格取得届
  3. 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
  4. 保険料口座振替納付(変更)申出書(*被保険者に扶養家族がいる場合)

これらの書類は、事業所がある地域を管轄している年金事務所で手に入れて下さい。
日本年金機構のホームページからダウンロードすることも可能です。

加えて、事業所の形態に応じて、以下の書類を追加で提出する必要が生じます。

  • 国、地方公共団体、法人・・・法人番号指定通知書等のコピー
    (国税庁の法人番号の公表サイト上にある法人情報のコピーでも可)
  • 法人事業所・・・法人の登記簿謄本(原本)
  • 「強制適用事業所」にあたる個人事業所・・・事業主の世帯全員の住民票(原本)、賃貸契約書のコピーなど
  • 任意適用事業所・・・任意適用申請書、従業員の任意適用同意書、事業主世帯全員の住民票(原本)、公租公課の領収証1年分

社会保険の電子申請義務化について

2018年3月に『行政手続きコスト削減のための基本計画』が厚生労働省から打ち出されました。
それに伴い、一部の企業を対象に「社会保険の電子申請の義務化」が2020年4月1日から開始されたのです。

以下の4つの条件を満たした企業は、所属する従業員や被保険者の数を問わず、社会保険の電子申請義務化の対象となります。

  1. 資本金、出資金の額が1億円以上の法人
  2. 投資法人
  3. 相互会社
  4. 特定目的会社となる適用事業所

また、対象となる手続きは、基本的に会社員が加入することになる、以下の4つの保険についてです。

  1. 厚生年金
  2. 健康保険
  3. 労働保険
  4. 雇用保険

社会保険の電子申請義務化の対象範囲は、今後拡大していく可能性があります。
電子申請には、従来の手続きよりも時間と手間が削減できるというメリットもあるので、早い段階から導入の準備を進めておきましょう。

従業員の採用時&被保険者の扶養家族の人数が変わった時はどうする?

社会保険に加入している事業所で新たな従業員を採用した時は、5日以内に日本年金機構へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。

加えて、採用した従業員が「短時間労働者」として被保険者となった場合は、備考欄にある該当する項目を〇で囲む必要があります。

また、被保険者に被扶養者がいたり、その人数に増減があったりした時も、5日以内に日本年金機構へ「健康保険被扶養者(異動)届」を提出しなければなりません。

【人事の基礎知識】雇用保険とは?

会社が採用した従業員には、雇用保険に加入させ「雇用保険被保険者証」を渡す必要があります。
会社や個人事業主が人を雇用するためには、必ず加入しなければならない「法的な義務」です。

雇用保険とは「従業員が失職した時のための経済的な支援を目的とした公的保険」。

雇用保険に加入していた従業員は、約3ヵ月~1年の期間、「失業等給付」を受けとることができるのです。
給付の際の条件は、雇用保険に加入している従業員の年齢、失業の理由などによって異なります。

失業後、早い段階で再就職した失業者には「就業手当」や「再就職手当」が支給され、元の職場での給与が、新たな職場よりも減少した場合には「就業促進定着手当」が追加で支払われます。(再就職先で6ヵ月以上勤務した場合)

しかし、再就職した事実をハローワークに報告せず、手当を受け取り続けていると「不正受給」とみなされ、手当を受ける権利ははく奪され、場合によっては「詐欺罪」に問われてしまうため、注意が必要です。

その他、雇用保険に加入していることによって、従業員が受給できる手当は以下の通りです。

  • 育児や介護による休業・・・給与の代わりとなる「休業給付」
  • 定年後も会社に勤務し続けた高齢従業員の給与が減少してしまった場合・・・定年前の給与との差額としての「高年齢雇用継続給付」

以下、労務を担当する人事が知っておくべき、雇用保険に加入すべき事業所や従業員、加入時の条件や手続きに必要な書類について詳しく解説していきます。

雇用保険に加入しなければならない事業所とは?

雇用している従業員が一人だけだとしても、事業所(個人事業主も含む)は、雇用保険法に基づいた「雇用保険適用事業所」とみなされます。
その事業主は、従業員の生活の安定を維持するため、条件を満たす従業員を雇用保険に加入させる必要があるのです。

雇用保険の加入条件を満たす従業員とは?

ここからは従業員の雇用形態別に、雇用保険の加入条件について解説していきます。

正社員

雇用保険に加入している事業所で雇用されている正社員は、必ず雇用保険に加入することになります。
2016年までは、雇用保険に加入できるのは64歳まででしたが、2017年からは年齢制限が撤廃されました。
なお、正社員の場合は、報酬の支払いが発生していれば、雇用契約を結んでいない、いわゆる「試用期間」の最中でも雇用保険に加入する義務が生じます。

しかし、例外として、従業員数が5人未満である個人経営の農林水産業を営む事業所は「暫定任意適用事業」に該当するため、雇用保険への加入義務は生じません。

 

非正規社員

アルバイトやパート従業員、派遣社員などの非正規雇用者の雇用保険への加入条件は以下の通りです。

  • 一週間の所定労働時間が20時間以上
  • 継続して31日以上勤務する見込みがある
  • 契約時に雇用期間が決まっていない場合
  • 契約の更新で31日以上継続して勤務する場合
  • 契約時は31日未満であった従業員が契約の延長によって31日以上働く見込みが生まれた場合

季節労働者

季節によって勤務状況が変化する「季節労働者」の雇用保険への加入条件は以下の通りです。

  • 雇用契約を結んでいる期間が1年のうち4ヶ月以上
  • 一週間の所定労働時間が30時間以上

上記の条件を満たした季節労働者は、「短期雇用特例被保険者」に該当するため、雇用保険に加入できます。
短期雇用特例被保険者が失業した場合、雇用保険に加入している正社員や非正規社員が受け取る「失業手当」の代わりに「特例一時金」の給付を受けることが可能です。

日雇い労働者

1日単位で給与が支払われる、いわゆる「日雇い労働」に従事する労働者でも、雇用保険に加入している事業所に雇用された場合、手続きを行うことで「日雇労働被保険者」となり、保険給付が受けられます。

また、以下の条件を満たした日雇い労働者は、上述の正社員と同様に「一般被保険者」の扱いで雇用保険に加入することが可能です。

  • 同じ事業所で31日以上働いている
  • 2ヵ月連続で18日以上働いている

なお、ハローワークの認可を受ければ、「日雇労働被保険者」として雇用保険に加入できます。

 

しかし、日雇労働者が雇用保険加入の手続きをするためには、労働者本人がハローワークに以下の書類を提出しなければなりません。

  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 雇用保険日雇労働被保険者手帳

人事・労務担当者だけではなく、雇用される側も留意する必要があります。

【人事の基礎知識】雇用保険に加入するために必要な書類&提出先

事業所が従業員を雇用保険に加入させるためには、ハローワークにて「適用事業所設置」の手続きを行う必要があります。

まずは、労働基準監督署に「労働保険関係成立届」を提出してください。
その後、「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」などもハローワークに提出し、雇用保険の加入手続きを行います。

その際には、以下の5つの書類が必要です。

  1. 登記事項証明書または法人登記謄本
  2. 雇用保険被保険者資格取得届
  3. 雇用保険適用事業所設置届
  4. 履歴書のコピーまたは、雇用保険被保険者証
  5. 労働基準監督署に提出した「労働保険関係成立届」の控え

雇用保険被保険者資格取得届には、社会保険労務士や、労働保険事務組合を通して提出していない場合、追加で以下の3つの添付書類が必要となります。

  1. 労働者名簿
  2. 賃金台帳
  3. 出勤簿

手続きに必要な用紙は、ハローワークで入手可能です。
雇用保険被保険者資格取得届の用紙は、従業員1人に1枚ずつ必要となります。
用紙は多めに手元に置いておきましょう。

また、雇用保険に加入済みの事業者が追加で事業所や従業員を雇用保険に加入させたい場合は、ハローワークに以下の書類を提出し、手続きを行っ下さい。

  • 雇用保険事業所各種変更届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

加えて、雇用保険被保険者資格取得届を初めて提出する事業者は、以下の4つの条件に当てはまる場合、別途書類を添付する必要があります。

  1. 労働保険料の納付状況が悪い場合
  2. 提出期限を過ぎていた場合
  3. 過去3年間における不正受給があった場合
  4. 株式会社の取締役や事業主と一緒に住んでいる親族が被保険者になった場合

【人事の基礎知識】ハローワークで行う雇用保険の手続きについてさらに詳しく解説!

新たに従業員を採用したら、採用日の翌日から10日以内に、事業所を管轄しているハローワークで雇用保険加入の手続きを行われなければなりません。
加入手続きの抜け漏れは、人事異動の際に起こりやすいため、注意が必要です。

雇用保険の加入手続きをすると、以下の3つの書類が交付されます。

  1. 雇用保険適用事業所設置届事業主控
  2. 雇用保険被保険者証
  3. 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書

雇用保険被保険者証はかならず従業員本人に手渡してください。

また、雇用保険適用事業所設置届事業主控には、雇用保険の加入番号が記載されています。雇用保険被保険者資格取得等確認通知書と共に、大切に保管しておきましょう。

ここからは、ハローワークで行う雇用保険加入に必要な書類の記入内容について詳しく解説していきます。

保険関係成立届の記入内容

保険関係成立届には以下の5つの内容を記入して下さい。

  1. 会社の概要
  2. 会社名
  3. 会社の住所
  4. 雇用者保険被保険者数
  5. 雇用保険への加入日

雇用者数が常に変動している会社の場合は「1か月で雇用する平均的な労働者数」を記入しましょう。

参照:厚生労働省「労働保険の成立手続き」

雇用保険適用事業所設置届の記入内容

雇用保険適用事業所設置届には以下の5つの内容を記入して下さい。

  1. 保険関係成立届に記載された労働保険番号
  2. 会社名
  3. 会社の住所
  4. 被保険者を採用した日
  5. 会社の概要

参照:ハローワークインターネットサービス

雇用保険被保険者資格取得届の記入内容

雇用保険被保険者資格取得届には、以下の8つの内容を記入して下さい。

  1. 労働保険番号(再取得の場合必要。被保険者ではなくなってから7年以上経過すると新規取得扱いになる)
  2. 事業所番号(雇用保険適用事業所設置届の提出時に交付される番号)
  3. 雇用の原因(中途採用、新卒、出向といった、雇用保険加入の理由を番号で記入)
  4. 賃金
  5. 雇用形態
  6. 職種
  7. 契約期間
  8. 週の労働時間

参照:ハローワークインターネットサービス

人事は従業員の安心のために社会保険・雇用保険の手続きをしっかり行おう

短時間労働者に対しての社会保険の適用範囲は、2016年、2017年、2022年、2024年と拡大されていきます。

「働き方改革」が叫ばれて久しい昨今。
国民の働き方は今後大きく変わっていき、それに伴い社会保険制度が改正される可能性があります。
社会保険の手続きを行う人事・労務担当者は、最新の情報を常に確認するようにしてください。

また、もしもの時に従業員を助けることができる雇用保険の手続きも大切です。
従業員が安心して働けるよう、人材を採用した際は、期限内に迅速で確実な手続きを行いましょう。