簡易課税制度
消費税納付計算にあたって、「控除仕入税額」を算定する必要があります。
「控除仕入税額」の算定を、原則的に行うためには、
①「課税仕入高」を集計する。
②「課税仕入高」から課税売上高に対応するよう「控除仕入税額」を計算する。
ことが必要となります。
上記①の「課税仕入高」の集計のためには、日々の仕入取引、物品購入取引等にあたり課税・非課税を考慮して、会計帳簿に記帳することが必要となり、結果、事務処理負担が増大してしまいます。
このため、税務署では、「控除仕入税額」を簡単に計算し、事務負担を軽減するため、「簡易課税制度」を設け、事業者が「原則課税方式」と「簡易課税方式」のいずれかを自由に選択して申告・納付をできるようにしています。
簡易課税方式を選択することができる条件
「簡易課税方式」は、控除仕入税額の計算を原則法により行うことが事務負担を増大させることを懸念して、中小規模の会社に対して設けられた制度です。
従いまして、この制度を利用できる事業者を、以下の制限を設けて、「中小規模の会社」に限定しています。
【簡易課税方式を選択できる条件】
①「消費税の納付をしなければならない事業年度」の前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の会社。
かつ
②「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前(※)に提出している場合。
※「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出期限
「消費税を納付しなければならない事業年度の初日」の「前日」までに管轄税務署に提出することが必要となります。
簡易課税方式を選択した場合の制限
・いったん、簡易課税制度を選択すると、最低2年間は簡易課税制度の適用を継続しなければなりません。(1年でやっぱり原則課税に戻したいと思っても、もどすことはできません。)
・また、2年間簡易課税方式で申告・納税した後に、簡易課税制度の適用をとりやめる場合にも、「選択をとりやめようとする課税期間の開始の日」の「前日」までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を管轄税務署に提出する必要があります。
簡易課税方式での「控除仕入税額」の計算の特徴
簡易課税方式での「控除仕入税額」は、
「控除仕入税額」=「課税売上高」×「消費税率(8%)」×「各業種ごとに決められた一定割合」 |
という簡単な計算式により決定することができます。
このため、「簡易課税方式」を選択した場合には、日常の仕入等取引を会計帳簿に記帳する際に、消費税のことを考える必要がなくなります。
このため、消費税の納税事業者であっても、「売上高」について「課税売上高」か「非課税売上高」かを注意して日々の会計帳簿への記帳をするだけで、消費税申告書ができてしまいます。
他方、「原則方式」では
日常の会計帳簿へ仕訳を入力する際に、「この仕入取引は課税取引であるか、非課税取引であるかを考え」、かつ「課税取引については、本体金額と消費税金額を分けて仕訳をする」ことが必要となります。すなわち、仕入等取引に含まれる消費税額を取引ごとに分離計算することが前提として必要になってきます。
簡易課税方式の計算式
【控除仕入税額の計算式】
「控除仕入税額」=「課税売上高」×「消費税率(8%)」×「各業種ごとに決められた一定割合」 |
控除仕入税額の計算式は、上記の単純な計算式です。
以下のセクションでは、上記計算式の計算要素についてご説明いたします。
課税売上高の集計
売上高等の殆どが消費税を課税して販売しなければならない「課税売上」という会社が殆どではないかと思いますが、売上高等の中には「消費税の課税が免除されている売上(免税売上)」や「消費税を課税する必要のない非課税売上・不課税売上」というものもあります。
このため、課税売上高を集計するためには、全ての売上高から、免税売上・非課税売上・不課税売上といわれるものを控除することが必要となります。
※免税売上・非課税売上・不課税売上の詳細 ⇒
課税売上高に乗じる一定割合(みなし仕入率)の特徴
簡易課税方式では、「課税売上高×消費税率(8%)」に「各業種ごとに決められた一定率」を乗じることで簡易に「控除仕入税額」を計算できます。
この「各業種ごとに決められた一定率」のことを「みなし仕入率」といいます。
「みなし仕入率」は、「この業種であれば、課税売上高に対する課税仕入等の割合はこのぐらいだろう」と税務署が決めた割合と考えて頂くとイメージが湧くのではないかと思います。
この割合が業種ごとに決められている理由につきましては、各業種ごとの人件費割合を反映していると思われます。
決算書の費用項目は、大きく分けて「仕入等の原価」「役員報酬、従業員給与等の人件費」「消耗品、家賃、外注費、交際費、通信費等の経費」の3つに分けることができます。
このうち、「原価」「経費」については、殆どの場合が消費税を支払う必要がある「課税取引」となります。他方「人件費」については、消費税を支払う必要のない「非課税取引」となります。
このため、「原価」「経費」の全費用に占める割合が高い(反対の言い方をすれば「人件費」の全費用に対する割合が低い)と考えられる「卸売業」や「小売業」では「みなし仕入率」が高くなっています。
他方、通常「人件費」の全費用に占める割合が高いと考えられる「サービス業」では、「みなし仕入率」は低くなっています。
このような見方で、下記の「みなし仕入率」を見ていただければ、なぜ「みなし仕入率」が業種ごとに決められているのかが分かりやすくなるのではないかと思います。
みなし仕入率
【平成27年3月31日以前に開始する事業年度】
事業区分 | 事業種類 | 事業内容 | みなし仕入率 |
第一種 | 卸売業 | 購入した商品を性質、形状を変更せず、他の事業者に販売する事業 | 90% |
第二種 | 小売業 | 購入した商品を性質、形状を変更せず、消費者に販売する事業 | 80% |
第三種 | 製造業等 | 農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、製造小売業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業。 ※加工賃等の料金を受け取って役務を提供する事業は第四種事業になります。 |
70% |
第四種 | ・飲食業 ・その他の事業 |
飲食店業、その他の事業 | 60% |
・金融業 ・保険業 |
金融業、保険業 | 60% | |
第五種 | ・通信業 ・サービス業 |
通信業、サービス業 | 50% |
不動産業 | 不動産業 | 50% |
※青字:平成27年4月1日以後開始の事業年度から改正があります。
【平成27年4月1日以後に開始する事業年度】
事業区分 | 事業種類 | 事業内容 | みなし仕入率 |
第一種 | 卸売業 | 購入した商品を性質、形状を変更せず、他の事業者に販売する事業 | 90% |
第二種 | 小売業 | 購入した商品を性質、形状を変更せず、消費者に販売する事業 | 80% |
第三種 | 製造業等 | 農業、林業、漁業、鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、製造小売業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業。 ※加工賃等の料金を受け取って役務を提供する事業は第四種事業になります。 |
70% |
第四種 | ・飲食業 ・その他の事業 |
飲食店業、その他の事業 | 60% |
第五種 | ・金融業 ・保険業 |
金融業、保険業 | 50% |
・通信業 ・サービス業 |
通信業、サービス業 | 50% | |
第六種 | 不動産業 | 不動産業 | 40% |
控除仕入税額の計算
1、1種類の事業のみの場合
1種類の事業のみを営む場合には、御自身の会社に該当する「みなし仕入率」を「課税売上高に係る消費税金額」に乗じて「控除仕入税額」を算定します。
(例示:1種事業に該当する場合)
「控除仕入税額」=「課税売上高×消費税率(8%)」×「みなし仕入率(90%)」 |
(例示:4種事業に該当する場合)
「控除仕入税額」=「課税売上高×消費税率(8%)」×「みなし仕入率(60%)」 |
2、複数の事業を営む場合
複数の事業を営む場合には、上記1のように単一の「みなし仕入率」を使用することができません。
下記のセクションで、詳細にご説明いたします。
複数の事業を営む場合の「みなし仕入率」
複数の事業を営む場合の「みなし仕入率」の決定にあたっては、以下の3つの方法により計算することができます。
(計算方法)
1、原則的計算方法
⇒御自身の会社の「平均みなし仕入率」を計算する方法
2、例外的計算方法
⇒主要な事業の「みなし仕入率」を使用する方法
3、「一番低いみなし仕入率」を使用する方法
以下でそれぞれの計算方法をご説明いたします。
1、原則的方法
原則的方法では、御自身の会社の「平均みなし仕入率」を計算して「控除仕入税額」を算定することになります。この場合にも、下記の2通りの計算方法があります。
(1)第一法(原則法)
①まず、「平均みなし仕入率」を計算します。
②その後、「課税売上高に係る消費税金額」に「平均みなし仕入率」を乗じて「控除仕入税額」を計算します。
(計算式)
①平均みなし仕入率
{(第1種事業の課税売上に係る消費税×第1種みなし仕入率)+(第2種事業の課税売上に係る消費税×第2種みなし仕入率)+・・・・・+(第6種事業の課税売上に係る消費税×第6種みなし仕入率)} ÷ {(第1種事業の課税売上に係る消費税)+(第1種事業の課税売上に係る消費税)+・・・・・+第6種事業の課税売上に係る消費税)} |
②控除仕入税額の計算
「全ての課税売上高」 × 「平均みなし仕入率」 |
(計算例示)
・第1種事業:課税売上高=2,000万円、課税売上に係る消費税額=160万円
・第2種事業:課税売上高=1,000万円、課税売上に係る消費税額=80万円
・第3種事業:課税売上高=500万円、課税売上に係る消費税額=40万円
①平均みなし仕入
(160万円×90%+80万円×80%+40万円×70%)÷(160万円+80万円+40万円)=236万円÷280万円=0.8425714
②控除仕入税額
(160万+80万円+40万円)×0.8425714=235.9万円
(2)第二法(簡便法)
「それぞれの事業の課税売上高に係る消費税金額」に「それぞれの事業のみなし仕入率」を乗じて、直接「控除仕入税額」を算定する方法です。
(ただ、この方法は、貸倒回収額がなく、売上にかかる対価の返還等がない場合にのみ使えます。)
(計算式)
①控除仕入税額
(第1種事業の課税売上に係る消費税×第1種事業みなし仕入率)+(第2種事業の課税売上に係る消費税第2種みなし仕入率)+・・・・・+(第6種事業の課税売上に係る消費税×第6種みなし仕入率) |
(計算例示)
・第1種事業:課税売上高=2,000万円、課税売上に係る消費税額=160万円
・第2種事業:課税売上高=1,000万円、課税売上に係る消費税額=80万円
・第3種事業:課税売上高=500万円、課税売上に係る消費税額=40万円
①控除仕入税額
160万円×90%+80万円×80%+40万円×70%=236万円
2、例外的方法
(1)例外的方法が利用できる場合&その場合の計算方法
①「1種類の事業の課税売上高」が「全体の課税売上高」の75%以上を占める場合には、「75%以上を占める事業のみなし仕入率」を「全体の課税売上に係る消費税金額」に対して適用し、「控除仕入税額」を計算することができます。
②3種類以上の事業を営む事業者で、「特定の2種類の事業の課税売上高の合計額」が「全体の課税売上高」の75%以上を占める場合には、
その2業種のうち「みなし仕入率の高い方の事業に係る課税売上高に係る消費税金額」については、「そのみなし仕入率」を適用し、
「それ以外の課税売上高に係る消費税金額」については、「その2種類の事業のうち低い方のみなし仕入率」を適用して「控除仕入税額」を計算することができます。
(2)「1種類の事業の課税売上高」が「全体の課税売上高」の75%以上を占める場合の計算例
(計算例示)
・第1種事業:課税売上高=3,000万円、課税売上に係る消費税額=240万円
・第2種事業:課税売上高=100万円、課税売上に係る消費税額=8万円
・第3種事業:課税売上高=100万円、課税売上に係る消費税額=8万円
①適用判定
3,000万円÷(3,000万円+100万円+100万円)=0.93 >75%
⇒第一種事業のみなし仕入率(90%)を使用できる。
②控除仕入税額
(240万円+8万円+8万円)×90%=230万円
(3)3種類以上の事業を営む事業者で、「特定の2種類の事業の課税売上高の合計額」が「全体の課税売上高」の75%以上を占める場合の計算例
(計算例示)
・第1種事業:課税売上高=1,500万円、課税売上に係る消費税額=120万円
・第2種事業:課税売上高=1,000万円、課税売上に係る消費税額=80万円
・第3種事業:課税売上高=100万円、課税売上に係る消費税額=8万円
①適用判定
・1,500万円÷(1,500万円+1,000万円+100万円)=0.57 <75%
⇒「第一種事業のみなし仕入率(90%)」を単独では適用できない。
・(1,500万円+1,000万円)÷(1,500万円+1,000万円+100万円)=0.96 >75%
⇒「第一種事業及び第二種事業のみなし仕入率(90%、80%)」を適用できる。
②控除仕入税額
120万円×90%+(80万円+8万円)×80%=178.4万円
3、「一番低いみなし仕入率」を使用する方法
【規定】
2種類以上の事業を営む事業者が、課税売上げを事業ごとに区分していない場合には、
この区分をしていない部分については、その区分していない事業のうち一番低いみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算しなければなりません。
【理由】
売上取引を会計帳簿に記帳する場合には、相手先や摘要を記入するために、通常、どの事業の売上であるか不明となることは珍しいと思われます。
ただ、このような場合には、事業者にとってもっとも不利となる「みなし仕入率」を適用しなければいけないというペナルティ的な規定が適用されることになります。