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- 所有と経営の分離に絞った株式会社と合同会社の違いについての考察
こんにちは、大阪会社設立代行税理士の佐藤です。
今回は「株式会社と合同会社で設立費用が違うだけではないの?」「株式会社と合同会社って結局は何も違いはないんじゃない?」「金持ちは合同会社なんて作らないのでは?」という人向けに書いてみました。しっかり読めば、合同会社と株式会社の決定的な違いである「所有と経営の分離」を理解できます。会社設立時に株式会社を設立するか合同会社を設立するかで悩むことはなくなります。
出資者と経営者の法律上の関係につき、合同会社と株式会社では異なる取扱がなされています。
この違いが、そのまま合同会社の特色、株式会社の特色となっています。
以下で、出資者と経営者の法律上の関係につき、両者の特色を記載致します。
合同会社における出資者と経営者との関係(出資と経営の一致)
合同会社においては、法律(会社法)上、出資者は、原則として、会社経営者となります。
すなわち、出資者は、法律上、原則として、会社経営権(業務執行権※1及び会社代表権※2)を持つという点が、合名会社の最大の特色です。
合同会社においては、出資者は、合同会社に出資をしたことにより、法律上原則として、会社の経営権(業務執行権及び会社代表権)が与えられますので、出資者は会社経営に参加し、各自が対外的にも会社を代表して取引先等と契約を結ぶことができます。
この点、株式会社においては、出資者は、株式会社に出資したということのみでは、法律上直接には、会社経営権を与えられません。
株式会社においては、法律手続を経て、別途、取締役(代表取締役)とならない限りは、会社の経営権(業務執行権及び会社代表権)が与えられません。
※1:業務執行権
会社は生身の人間ではなく、抽象的な存在です。
このため、会社に代って、実際に、「会社経営に必要な活動(対外的な商品の売買、固定資産の購入、借入等会社経営に必要なすべての対外的活動及び従業員の採用、各種社内規則の制定、支店・部門等の組織の設置等の対内的活動)」を決定、実行する生身の人間が必要となります。
このことから、会社では、特定の者に業務執行権を与えて、「会社経営に必要な活動を決定、実行させる」必要があります。
この権利を業務執行権といいます。
※2:会社代表権
業務執行権は、現実に、会社経営に必要な活動を決定し、実行することです。大阪で会社設立代行をしていても、この点の理解は難しいテーマです。
他方、法律上では、業務執行者が取引先と契約を締結する等の対外的活動をおこなった場合には、業務執行者が契約を行ったという事実があるのみで、その契約は、まだ、「会社が行った契約である」ということにははなっていません。(この段階では、まだ業務執行者と取引先との契約にしかすぎません。)
このため、法律上では、「業務執行者が行った活動」を、「会社が行った活動」とするもう一つの法律効果を与える必要があります。
この「業務執行者が行った活動」を、「会社が行った活動」とするための「法律上の効果」を会社代表権といいます。(これにより、業務執行者と取引先とが行った契約が、初めて、会社と取引先とが行った契約となります。)
法律上では、取引先と会社が契約等を行う場合には、業務執行者が業務執行権により契約を実行するとともに、会社代表権により契約の効果を会社に帰属させる必要があります。
株式会社における出資者と経営者との関係(出資と経営の分離)
株式会社では、法律(会社法)上、出資者と経営者は別の存在であることが前提となっています。
すなわち、出資者は、法律上、直接には、経営者にはなりません。
会社経営は、出資者とは別の存在である「取締役」や「代表取締役」が行います。
株式会社では、出資者である「株主」と会社経営を行う「取締役」、「代表取締役」とが別々に存在していることが前提となっています。
このため、法律上、株式会社において会社経営を行うためには、別途「取締役」「代表取締役」に就任する必要があります。
この点、設立したばかりの会社では、その殆どが「株主=取締役=代表取締役」となります。
この状況は、法律上、自動的に発生しているものではありません。
この状況の裏には、①「株主(発起人)」が株主総会(創立総会)を開催して、自らを「取締役」に選任し、その後、②取締役が自らを「代表取締役」に選任したという法律手続(選任決議)が存在しているのです。
合同会社では上記でご説明させて頂きましたように「出資者と経営者は、法律上一致するもの」であるため、法律上「会社経営を行う者(会社経営機関)」を別途規定する必要はありません。
他方、株式会社においては、「出資者と経営者は、別の存在」という前提がありますので、法律上、「会社経営を行う者(会社経営機関)」を別途厳格に規定する必要があります。
この会社経営機関が法律上別途規定されているか否かが、そのまま合同会社の特色、株式会社の特色となっています。以下で、会社経営機関につき、両者の特色を記載致します。
合同会社の経営機関の特色
【原則規定】
合同会社では「出資と経営が一致している(出資者と経営者は同じ)」ために、「会社経営は出資者が行う」という規定を置くことで十分です。このため、合同会社においては、法律上、特段、会社経営機関についての規定は存在しません。
【例外規定①:業務執行社員制度】
合同会社の出資者(社員)には、出資はするが、会社経営はしたくないという人も存在します。
法律(会社法)では、このような要請に対処するために「業務執行社員」の規定を設けています。
法律上は原則として、出資者は会社経営権(業務執行権、会社代表権)を持つのですが、定款※1で別途「業務執行社員」を規定することにより、同時に「業務執行権を持たない社員」を会社内部の規定で創り出すことを認めています。
この制度を採用することにより、会社の自治で、社員を「業務執行権を持つ社員(業務執行社員)」と「業務執行権を持たない社員」に分けることができます。
【例外規定②:会社代表社員制度】
業務執行社員が複数存在する場合、契約書等に署名する社員の名前が頻繁に変わると、取引先にとっては、混乱が生じたり、その都度その人に会社代表権があるのかを調べないといけない等の不都合が生じる場合があります。そのため、会社代表権をもつ社員を限定したいという合同会社も存在します。
法律上、このような要請に対処するため「代表社員」の規定を設けています。
法律上は原則として、出資者は会社経営権(業務執行権、会社代表権)を持つのですが、定款で別途「代表社員」を規定することにより、同時に「代表権を持たない社員」を会社内部の規定で創り出すことを認めています。
この制度を採用することにより、会社の自治で、社員を「代表権を持つ社員(代表社員)」と「代表権を持たない社員」に分けることができます。
【例外規定の持つ意味】
留意すべきことは、上記の「業務執行社員」「代表社員」制度は、定款により規定されるということにあります。
法律(会社法)上は、原則として「出資者は会社経営権」を持つ存在としつつ、会社の自治の範囲(定款)で、法律上の原則規定の例外として、これらの制度を置くことを認めているにすぎないのです。
※1:定款
法律(会社法)で規定されるルールに反しない限りにおいて、会社自身が自主的に定めることができる会社の自治規則(目的・組織・活動・構成員・業務執行等の規則)です。
株式会社の経営機関の特色
【株式会社の会社経営者】
株式会社では「出資と経営が分離している(出資者と経営者は別の存在)」ために、出資者(株主)とは別に会社経営者を法律上規定することが必要になります。
法律(会社法)が、株式会社の会社経営者として規定している者(機関)が、「取締役」(「取締役会」「代表取締役」)です。
これらの機関は、合同会社とは異なり、法律が株式会社において設置しなければならないものとして規定したものです。従いまして、株式会社を設立する場合には、出資者(株主)とは別に必ず「取締役」となる人を決定(選任)することが必要となります。また、それぞれの機関が持つ会社経営権につきましても法律で規定されています。
【株式会社の出資者と会社経営】
株式会社においては、会社経営者が出資者(株主)とは別に存在するために、原則、出資者が直接会社経営に参加することはできません。ただし、出資者が一切会社経営に関与できないとすると、会社経営者が出資者を無視して好き勝手経営してしまうリスクがあります。
このリスクに対応するために、法律は、出資者に以下の権限を与えて、出資者が会社経営に関与できる余地を残しています。
・株式会社の出資者(株主)の集合体である「株主総会」の決議で、「取締役を選任する」権限を与えています。これにより、出資者は、人事権を通じて、会社経営に間接的に関与することができます。
・また、株式会社の非常に重要な経営事項(事業の全部や重要な一部の譲渡、事業の全部の譲受け、事業の全部の賃貸、解散等)については、株主総会の決議を経なければ、会社が実行することができないという規定を設けています。これにより、非常に重要な経営事項には、株主自らが、直接的な業務執行の意思決定を行うことができるようにしています。
株式会社の取締役に与えられる権限の違い
同じ株式会社であっても、法律(会社法)上、「取締役会※1を設置しない会社」と「取締役会を設置する会社」では、取締役に与えられる権限は異なります。
以下、取締役の権限、会社経営機関の権限につき、「取締役会を設置しない会社」と「取締役会を設置しない会社」に分けて、ご説明いたします。
※1:取締役会
取締役で構成され、取締役の多数決により、「株式会社の業務執行の決定」等を行う合議体です。
株式会社においては、「取締役会を設置するか否か」は、定款で定めることができ、会社の任意で設置することができます。
⇒取締役が3名以上であっても、取締役会を設置したくない場合には、取締役会を設置する必要はありません。
ただし、「定款に株式譲渡制限を設けていない会社」等では、取締役会を置く必要があります。
⇒これにつきましては、殆どの場合、設立時の定款で「株式の譲渡制限」の規定を置きます。弊社に会社設立を依頼して頂いた場合には、この制限を設けて定款を作成致しますのでご安心下さい。
取締役会を設置しない会社
【原則規定】
「取締役会を設置しない株式会社」においては、会社経営を行うのは「取締役」です。
すなわち、法律上、取締役が、原則、業務執行権及び会社代表権を持っています。
このため、会社の業務を行い、会社を代表するのは、すべて取締役が行います(取引先との契約を現実に締結し、契約書に記名押印するのは取締役が行います。)。
【例外規定①:代表取締役制度】
「取締役会を設置しない株式会社」においては、「取締役」が会社代表権も持ちます。このため、このような株式会社においては、「代表取締役」を別途定める必要はありません。
ただ、取締役が複数存在する場合、契約書等に署名する取締役の名前が頻繁に変わると、取引先にとっては、混乱が生じたり、その都度その人に会社代表権があるのかを調べないといけない等の不都合が生じる場合があります。そのため、会社代表権をもつ取締役を限定したいという株式会社も存在します。
法律上、このような要請に対処するため「代表取締役」の規定を設けています。
法律上は原則として、取締役は会社経営権(業務執行権、会社代表権)を持つのですが、定款や決議等で別途「代表取締役」を規定することにより、同時に「代表権を持たない取締役」を会社内部の規定や決議で創り出すことを認めています。
【例外規定の持つ意味】
留意すべきことは、上記の「代表取締役」制度は、会社内部の決定により規定されるということにあります。
法律(会社法)上は、原則として「取締役は会社経営権」を持つ存在としつつ、会社の自治の範囲で、法律上の原則規定の例外として、これらの制度を置くことを認めているにすぎないのです。
取締役会を設置する会社
【原則規定】
「取締役会を設置する株式会社」においては、会社経営を行うのは、「業務執行取締役」(「代表取締役」を含む)です。
「取締役会を設置する株式会社」においては、3名以上存在する「取締役」の中から、特に業務執行権を持つ「業務執行取締役」及び業務執行権・会社代表権を持つ「代表取締役」を「取締役会」で選任します。(この場合、代表取締役は必ず決めなければなりません。)
そして、会社経営の内、業務執行については、「業務執行取締役」「代表取締役」が行い、会社代表については、「代表取締役」が行います。
【取締役の権限】 「取締役会を設置する株式会社」においては、「取締役」は単独では会社の業務執行権、会社代表権を持ちません。このような株式会社の「取締役」の権限は主として以下の権限を持つのみとなります。 ・「取締役」全員で「取締役会」を構成し、「取締役会」の多数決議により、業務執行権を持つ「業務執行取締役」や業務執行権及び会社代表権をもつ「代表取締役」を選任します。
・「取締役会」の多数決議により、業務執行取締役や代表取締役が実行する「業務執行の意思決定」を行います。この点、業務の実行を通じてではなく、「業務執行の意思決定」を通じて、会社経営に関与します。
合同会社では、「定款」で「会社独自のルール」を規定すれば、「会社法上の原則」とは違った「会社独自のルール」を採用することができる事項が沢山あります。
他方、株式会社においては、法律上、「定款」で「会社独自のルール」を規定できる事項は限りなく制限されています。
上記の会社自治に対する法律上の取り扱いの違いが、そのまま合同会社の特色、株式会社の特色となっています。以下で、この点につき、両者の特色を記載致します。
合同会社における定款による会社自治規定
合同会社では、「出資者と会社経営者は一致している」との前提をおいていることにより、仮に出資者同士の信頼関係が崩れた場合には、その影響が直接会社経営に悪影響を及ぼすことになります。
このため、法律(会社法)は、合同会社について、出資者(社員)同士や経営者(業務執行社員)同士の信頼関係維持を重視する各種の規定を多く設けています。
例えば、「既存社員がその持分を他者に譲渡する場合」や「新規の出資者の加入時」には、既存の社員間の信頼関係が崩れないようなルールを規定していますし、「業務執行」や「定款変更」の場面等では、社員間の多数決による決定を採用しています。
他方、合同会社では、そもそも出資者(経営者)同士の信頼関係が強いために、出資者同士が話し合って、上記のような法律上の規定を採用したくないと思うならば、お互いの合意により、自由に規定を変更できるようにしています。この結果、合同会社では、会社の自治規定である「定款」により、柔軟に法律上の規定を変更できるようにしています。
また、法律上、合同会社については「出資者と経営者との一致」を原則にしていますので、「会社が獲得した利益の分配」についても、単なる「出資割合に応じて分配する方法」のみではなく、業務執行の成果等も加味した配分が可能となるようにしています。
利益分配についても、「定款」で規定すれば、「出資割合に応じた分配方法以外の方法」をも採用できるようにしています。
以下、合同会社において会社自治がみとめられている主要なものを挙げておきます。
1.利益配当に関する規定
【会社法上の原則規定(会社法622条)】
利益配当は、「各社員(出資者)の出資割合」に応じて分配する。
【定款での規定】
- 定款に別途規定を定めることで、上記の方法以外の方法での利益配当が可能です。
- この他、利益配当の時期・回数等を定款で決めることも可能です。
2.既存社員(出資者)の持分(出資)の譲渡制限の規定
【会社法上の原則規定(会社法585条)】
業務執行社員の持分(全部又は一部)は、すべての社員(業務執行権のない社員を含む)の承諾がなければ、他人に譲渡することができない。
業務執行権のない社員の持分(全部又は一部)は、すべての業務執行社員の承諾がなければ、他人に譲渡することができない。
【定款での規定】
- 合同会社においては、既存の社員がその持分を他の者に譲渡してしまうことにより、その持分を譲り受けた者が、突然、会社経営に参加し、これまでの社員相互の信頼関係を壊してしまうことを防止するために、上記のような規定を法律上(会社法)定めております。
- 上記のような規定が不要であると考える場合等は、社員の持分の譲渡について、定款で「会社独自ルール」を定めることができます。
⇒「他の社員全員の承諾」を「他の社員の過半数の承諾」に変更する、「すべての業務執行社員の承諾」を「業務執行社員の過半数の承諾」に変更する等が可能です。
3.新たな社員(出資者)の加入制限
【会社法上の原則規定(会社法604条、637条)】
新たな出資者を会社に参加させる場合、すべての社員の同意が必要となる。
【定款での規定】
- 合同会社においては、突然、知らない者が会社経営に参加することで、これまでの社員相互の信頼関係が壊れてしまうことを防止するために、新たな出資者の加入場面においても、上記のような規定を法律上(会社法)定めております。
- 上記のような規定が不要であると考える場合等は、新たな出資者の加入について、定款で「会社独自ルール」を定めることも認めています。
⇒「すべての社員の同意」を「社員の過半数の同意」に変更する等が可能です。
4.業務執行、会社代表
【会社法上の原則規定(会社法590条、591条、599条)】
業務執行社員が複数いる場合には、合同会社の業務は、社員の過半数をもって決定します。ただし、日常的な行為(消耗品・備品の購入等)については、各社員が単独で行うことができます。
業務執行社員が複数いる場合には、各業務執行社員が合同会社を代表します。
【定款での規定】
- 合同会社においては、業務執行社員の相互の信頼関係が存在するため、業務執行の決定については、出資割合等に関係なく、人数割合での意思決定が行われます。
- 他方、上記のような規定が不要であると考える場合等は、業務執行の意思決定の方法について、定款で、「会社独自ルール」を定めることができます。
- 会社代表権については、各業務執行社員が単独で会社代表権を持ちます。会社代表権を持つ業務執行社員を限定する場合には、定款により代表社員を限定することができます。
5.定款の変更の手続き
【会社法上の原則規定(会社法637条)】
定款を変更する場合には、すべての社員の同意が必要となります。
【定款での規定】
- 合同会社では、会社のルールを規定する「定款」を変更する場合には、原則、社員(出資者)の全員の同意を要求しています。
- ただし、この規定につきましても、「定款」で「会社独自ルール」を定めることができます。
⇒「社員全員の同意」を「社員の過半数の同意」に変更する等が可能です。
株式会社における定款による会社自治の制限
株式会社においては、「出資者と経営者とが別々に存在している」ことが前提となっているために、会社の内部に、出資者と経営者が別々に存在しています。また通常、会社経営者は、会社に対する経営権を持つことから、株主に比して強大な権力をもつことが想定されます。
このため、法律上、強大な権限をもつ経営者から出資者を保護する必要性があり、このため、株主保護のための規定を多数設けています。
また、株式会社においては原則として株式の譲渡は自由にできるという前提をとっていますので、出資者同士の信頼関係もあまり強くないということが前提となっています。
このような状況のもとで、法律(会社法)が経営者の権限乱用から株主を保護するために設けた規定等を、会社の自治で変更することを認めてしまっては、不当に株主の利益害される可能性が出てきます。
このため、株式会社については、定款により会社独自のルールを規定できる事項は、極めて少なくなっています。