減価償却とは
会社が事業のために購入した「建物」「建物附属設備」「機械装置」「器具備品」「車両運搬具」などの資産は、長期にわたって企業が事業のために使用することを目的とします。
このような、1年を超えて使用する目的の資産のことを「固定資産」といいます。
このような1年を超えて使用する予定の「固定資産」については、事務用品や消耗品等と同じように、その購入した年度に、購入金額全額を「経費」として計上することは、原則できません。
反面、これらの「固定資産」についても、事業に使用され、その価値は減少していきます。
法人税法では、「固定資産」の使用によって価値が減少した部分を、価値が減少した年度に「経費」として計上することを認めています。
この価値の減少金額を計算して、価値が減少した年度の「経費」に計上することを「減価償却」といいます。
減価償却の対象となる資産(償却資産)
減価償却の対象となる資産は、「償却資産」といわれます。
償却資産については、大まかに以下のように考えることができます。
◆長期資産であること。 |
減価償却の対象となる資産は、通常1年を超えて長期に使用されることが想定される資産となります。
この点、短期的に消費される「事務用品」や「消耗品」は、資産ですが、減価償却の対象とはなりません。
これらの資産については、購入した年度に、購入金額全額が経費として計上されます。
◆価値が減少する資産であること。 |
使用や時間の経過によって、その価値が減少する資産が減価償却の対象となります。
この点、「土地」や「骨とう品」等については、減価償却の対象とはなりません。
これらの資産については、所有する期間に経費として計上されることはありません。
減価償却の例示
◇会社で240万円の営業用自動車を購入し、その使用見込み期間が6年とします。
◆減価償却として1年間に経費計上する金額
240万円 ÷ 6年 = 40万円 |
◆説明
自動車の購入価額240万円は、一括して購入した年度の経費として計上することはできません。
自動車の使用見込み期間は6年ですので、1年でこの自動車は40万円価値が減少すると考えられます。
このため減価償却費として、この自動車について、1年に40万円づつ経費を計上することになります。
◆図解による説明
減価償却に対する法人税法の考え方
利益の過少操作の防止
償却資産は、上記のように購入価額を長期間に分けて「減価償却費」として経費計上されます。
この点、減価償却の計算を会社の自由に委ねると、利益を少なくしたい場合には、減価償却費の金額を大きくすることで、会社による利益の過少操作が可能となってしまいます。
このため、法人税法では、同種の資産については同様の減価償却がなされるように規定を設け、会社の減価償却費を利用した利益の過少操作の余地を排除しています。
減価償却の任意的性格
法人税法上では、上記のように減価償却費を過大に計上することに対しては、規制する規定を厳格に設けています。
他方、償却資産を資産として計上した後、減価償却を行うか否かについては、会社(法人)の任意としています。
(個人事業主の場合には、減価償却を行わないことは禁止されています。)
法人税法では、減価償却を行わない場合には、その分だけ、利益が増加し、徴収できる法人税が増加するために、「減価償却を行わないこと」は禁止されていません。
減価償却計算に対する規制
法人税法では、下記の「減価償却計算の構成要素となる事項」について厳格な規定をもうけています。
これにより、同種の資産については、ほぼ同じような減価償却計算が行われることを担保しています。
- 償却資産の取得価額に対する規定
- 耐用年数に対する規定
- 減価償却方法に対する規定
減価償却計算の計算要素に対する規定
1.取得価額に対する規定
償却資産の取得価額は、減価償却により、各年度に分けて経費計上されます。
この償却資産の取得価額自体が、会社の自由に決定されてしまうと、各年度の経費金額を利益操作に利用される恐れがでてきます。
このため、法人税法では、償却資産の本体購入価額のみではなく、それに附随して生じる諸費用(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等)について、固定資産の取得価額に含めるか否かについて厳格に規定しています。
2.耐用年数に対する規定
減価償却計算は、償却資産の取得価額を、その償却資産の使用見込み期間に分けて経費計上するものです。
この使用見込み期間のことを「耐用年数」と言います。
この「耐用年数」についても、会社がそれを自由に決定しまうと、各年度の経費金額が会社の自由に決定できることとなり、結果、利益操作に利用される恐れがでてきます。
このため、法人税法では、償却資産の種類・構造・用途ごとにあらかじめ「法定耐用年数」を厳格に規定しています。
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3.償却方法に対する規定
償却方法とは、「減価償却の計算式」のことを言います。
「減価償却の計算式」を会社の自由に委ねた場合には、各年度の経費金額が会社の自由に決定できることとなり、結果、利益操作に利用される恐れがでてきます。
このため、法人税法では、償却資産の種類ごとにあらかじめ採用することができる「減価償却方法」を規定しています。
さらに、資産の種類ごとに原則的な「減価償却方法」を規定し、原則的減価償却方法以外の方法を会社が採用する場合には、届出の義務を課しています。
また、一旦会社が採用した「減価償却方法」を変更する場合には、税務署の承認を受けることを要求し、むやみに減価償却方法を変更することを規制しています。
固定資産
固定資産とは
固定資産とは、長期間にわたって継続的に会社等の経営のために使用する財産をいいます。
会計上では、長期であるか否かは、「1年以上継続的に使用されるか否か」の判断になります。
この点で、1年以内に消費されてしまうような財産は、資産であるが、固定資産とはなりません。
固定資産の形態による分類
固定資産は、形があるか否かによって「有形固定資産」と「無形固定資産」に分類されます。
形があるものを「有形固定資産」といい、形はないが、財産価値があるものを「無形固定資産」といいます。
固定資産の価値減少形態による分類
固定資産は、その価値が減少するか否かによって、「償却資産」と「非償却資産」に分類されます。
価値が減少するものは、減価償却によりその価値を使用・時の経過に伴って減少させていく必要があります。
このように、減価償却を行う資産を「償却資産」といいます。
他方、価値が減少しないものは、減価償却により価値の減少を認識する必要がありません。
このように、減価償却を行わないものを「非償却資産」といいます。
有形固定資産
有形固定資産には、具体的に以下のような資産があります。
有形固定資産のうち「土地」「一部の備品」「建設仮勘定」以外のものは、「償却資産」となります。
分類 | 具体例 | 償却 資産 |
1.建物 | ○ | |
2.建物付属設備 | ・ 電気設備、給排水設備、ガス設備、空調設備、昇降機設備等。 ・内装造作(内装工事費用、改造工事費用等)。 |
○ |
3.構築物 | ・ 塀、防壁、堤防、トンネル、橋梁、煙突、貯蔵用タンク、屋外広告塔等。 ・青空駐車場の舗装路面・舗装道路等 。 |
○ |
4.機械及び装置 | ・製造・加工の部分を構成する設備とその付属的設備等。 ・工事現場などで使用される主に大型の作業機器等。 ・取替可能で付属的な大型の機器(電気設備の分電器、通信設備の自動交換器、クレーン車・クレーン船のクレーン等)等。 |
○ |
5.車両運搬具 | 乗用車、バス、オートバイ、トラック、トレーラーとその台車、フォークリフト、クレーン車、鉄道用車両等 | ○ |
6.工具、器具及び備品 | ・『工具』:金型、ドリルの刃等。 ・『器具』:工具以外の道具をいいます。 ・『備品』:事務机・応接セットなどのオフィス家具、パソコン・コピー機などの事務機器、電話・FAX機などの通信機器等。 |
○ |
・『備品』のうち、美術品、書画、骨とう品等 | × | |
7.土地 | × | |
8.建設仮勘定 | ・ 設備の建設のために支出した「手付金」「前渡金」等。 ・設備の建設のために取得した機械等で保管中のもの。 |
× |
9.リース資産 | ・リース資産として固定資産計上するもの。 | ○ |
無形固定資産
無形固定資産とは
金銭等を支払い購入したもので、形がない固定資産を「無形固定資産」といいます。
無形固定資産は以下のようなものに分類されます。
- 法律上の権利
- 特定の施設の利用権など契約上の権利
- 営業権といった企業信用などにより超過収益力をもたらす権利
- ソフトウェア
無形固定資産の具体例
無形固定資産には、具体的に以下のような資産があります。
無形固定資産のうち「借地権」「電話加入権」以外のものは、「償却資産」となります。
分類 | 具体例 | 償却資産 |
法律上の権利 | ・工業所有権(特許権、商標権、実用新案権、意匠権) ・鉱業権、漁業権、水利権 ・版権、著作権 |
○ |
・借地権 | × | |
契約上の権利 | ・水道施設利用権、電気ガス供給施設利用権、ダム使用権等 | ○ |
・電話加入権 | × | |
営業権 | 合併や営業譲受により支払った金銭等よりも受け入れた資産の価値が小さい場合に生じる差額等をいいます。 | ○ |
ソフトウェア | ・コンピュータプログラム等 | ○ |
法人税法上の償却資産
法人税法上の償却資産の要件
法人税法においては、下記の要件をいずれも満たす場合には、償却資産としています。
したがって、下記の2要件に該当する場合には、原則として、減価償却により経費計上金額を計算する必要があります。
1.使用可能期間が1年以上のもの2.取得価額が10万円以上のもの |
法人税法の要件の内容
・上記1の要件は、「固定資産」となる要件を規定したものであり、会計上当然の規定といえます。
・上記2の要件については、10万円未満の資産については、たとえその使用可能期間が1年以上のものであっても減価償却計算を行うことは、会社の経理事務を煩雑化させるため、このような「少額な償却資産」を「法人税法上の償却資産」から除外した規定です。
法人税法では、特別に「金額基準」を採用して、「償却資産」を定義しています。
10万円未満の資産の取り扱い
法人税法では、10万円未満の資産については、償却資産として取り扱わず、「事務用品費」や「消耗品費」として、購入した年度に、購入金額全額を経費として計上することを認めています。