「法人税申告書別表4」と「税引後利益」、「税引前利益」
「法人税申告書の別表4」を作成する際には、計算のスタートが「当期利益又は当期損失」となっています。この「当期利益又は当期損失」は、「法人税等を控除する前の利益(税引前利益)」なのか?それとも「法人税等を控除した後の利益(税引後利益)」なのか?が、まず最初の問題となります。
この点、「法人税申告書の別表4」の「当期利益又は当期損失」に記載する金額は、「税引後利益」を記載しなければなりません。
ここで、初めて法人税申告書を作成する方は、
「法人税申告書の別表4」は、「課税所得を計算するための明細書」なのに、「課税所得や法人税等の金額が決まった後の金額(税引後利益)」を前提にして計算するのでは、計算ができないんじゃないか!と思われると思います。
この疑問に以下で答えたいと思います。
「法人税申告書の別表4」の性格
「法人税申告書の別表4」は、確かに「課税所得の金額を計算する明細書」ではありますが、これは、「作成者から見た課税所得金額の計算書」ではなく、あくまで全ての計算が終わった後に「税務署が課税所得が正しく計算されていることを確認するための明細書」である性格が強いのです。(※)
上記のように、課税所得の計算が正しく計算されているかどうかを確認する側(税務署側)にとっては、会社が作成した「損益計算書」と「法人税申告書別表4」とが、繋がっていることが、一見して確認できることが大切になります。
このため、「損益計算書の一番最終の利益(=税引後利益)」と「法人税申告書の別表4のスタートの利益」との一致を要求しているのです。(※)
(※)税務署からすると課税所得は、「税引後利益」からスタートするものだと考えています。
この立場に立つと、損益計算書で計上される「法人税、住民税及び事業税」は、損金不算入項目なので、別表4での加算が必要となる!と考えています。
⇒ただ、作成者からは、法人税等計算前に課税所得の計算が必要なので、課税所得計算のスタートは、税引前利益だ!と考えていたらいいと思います。
課税所得計算の方法
「法人税申告書別表4」が「税引後利益」をスタートとしているために、作成者側では、課税所得を計算する際に、「法人税申告書別表4」を利用できないのでしょうか?
通常の税理士事務所や法人税申告書を作成する経理担当者の方は、どのように課税所得を計算しているのでしょうか?
答えは簡単です、「法人税申告書の別表4」を完全に作成する前の段階で、
「税引前利益」をスタートにして、課税所得を計算しているのです。
この「法人税申告書の別表4」を完全に作成する前の段階とはどのような段階かといいますと、
・「法人税申告書の別表4」の加算項目である「損金の額に算入した納税充当金※」(=損益計算書の法人税等の金額)を空欄にしたままの状態です。
・すなわち、上記の項目は空欄にして、それ以外の加算項目、減算項目をすべて記入した状態で、「当期利益又は当期欠損の額」に「税引前利益」を入れると、課税所得がきちんと計算できるのです。
・なぜなら課税所得の計算は
「損益計算書の税引前利益」に加算項目、減算項目を加減算して計算されるものだからです。
※ちなみに「法人税申告書の別表4」の加算項目となる「損金の額に算入した納税充当金」は、他の加減算項目とは少し性格の違う加算項目なのです。
この項目は、「法人税申告書別表4」をわざわざ「税引後利益」をスタートとしたことから、それを「税引前利益」に置き換えるために加算項目に計上された項目としての性格を持っています。
「 課税所得計算」及び「法人税申告書別表4」の作成
「課税所得計算」及び「法人税申告書別表4」の作成は以下の手順で行います。
Ⅰ.課税所得計算
1、「損金の額に算入した納税充当金」以外の「加算項目」及び「減算項目」を別表4に記載又は入力する。
2、「当期利益又は当期損失」に「税引前利益」を記載又は入力して、法人税申告書作成ソフト等により「当期課税所得」を計算する。
Ⅱ.「法人税申告書別表4」の作成
1、上記で計算した「当期課税所得」により、法人税等の金額を計算する。
2、損益計算書に「法人税等」を記載又は入力することにより、「税引後利益」を計算する。
3、「法人税申告書別表4」の
・「当期利益又は当期損失」に「税引後利益」を記載又は入力する。
・「損金の額に算入した納税充当金」に損益計算書の法人税等の金額を記載又は入力する。
「課税所得計算の例示」&「法人税申告書別表4の作成例示」
【例示】
税引前当期利益:10,100,000円
加算合計 :500,000円
減算合計 :600,000円
①課税所得計算
税引前利益 :10,100,000円
加算合計 :+500,000円
減算合計 :△600,000円
課税所得 10,000,000円
②法人税計算前の別表4
・当期利益:10,100,000円を記載します。
・これ以外には加算金額に500,000円、減算金額に600,000円が入っています。
・課税所得10,000,000円となりますので、これで税額を計算します。
③法人税等の金額の計算
課税所得10,000,000円で法人税の計算を行います。
その結果は、以下のようになります。
法人税 :1,881,000円
住民税 : 365,800円
事業税 : 676,900円
法人税等: 2,923,700円
④損益計算書の記載
税引前当期純利益 :10,100,000円
法人税等 : 2,923,700円
税引後利益 :7,176,300円
④別表4への記載
・「当期利益又は当期損失」を7,176,300円とします。
・「損金の額に算入した納税充当金」を2,923,700円とします。
⇒「税引後当期純利益」7,176,300円と「損金の額に算入した納税充当金」2,923,700円を合計すると「税引前利益」10,100,000円になっています。
・課税所得の金額は、10,000,000円で変化しません。
別表5(2)記載の基本
・
別表5(2)を法人税申告書ソフトで作成する場合
上記の別表5(2)の基本を踏まえるは必要であるが、以下の考え方が必要。
1、課税所得計算(別表4)が適切に作成され、それが後から見て確認できること。
2、発想を転換する。
・納付、還付の事実がそもそも損金算入となるのか、損金不算入となるのかの確認
・法人税申告書ソフトの別表5(2)から別表4への転記のパターンを認識する。
多くの税務申告書ソフトでは、税金(租税)の納付、還付については、別表5(2)での記入結果が別表4に転記されるために、別表5(2)に入力した結果が、別表4でどのように転記されており、課税所得を増減させるのか否かの把握が必要となる。
会計事務所の交代や税務申告書担当者の交代
会計事務所の変更や前任担当者の会計帳簿への記帳方法により、当期の記帳方法が変化(影響を受けるものではありません。)することはありません。
会計事務所の変更や申告書記載担当者の変更があった場合でも、税務上の申告は、あくまで、前期の申告結果を受け継いで行ってください。
例えば、当期の会計帳簿の貸借対照表の期首残高と前期の申告書がずれている場合には、迷わず当期の貸借対照表の期首残高を変更すべきです。
過年度での申告書記載と会計帳簿の記載が異なっている場合には、
・原則として、修正申告が必要となるものです。
(修正申告するか否かは、会社が決める問題です。)
・修正申告をしない場合であっても、貸借対照表の期首残高を修正しない場合には、このズレを当期も引き継ぐことになるため、当期の税務申告書も誤った結果を引き継ぐことになってしまいます。
このような場合には、迷わず、前期の税務申告書の記載に合うように期首貸借対照表を修正し、その差額を課税所得計算に反映させておくことが必要となります。